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字幕翻訳と映像編集の狭間で

 池上彰氏の番組でインタビュー映像の音声と字幕が合っていなかった件が話題になっている。この話題については、以下の記事が興味深かった。

フジテレビ「池上彰緊急スペシャル」の「字幕取り違え」事件についての私見――テレビ報道の映像・字幕翻訳者としての経験から韓東賢 / 社会学

 ただ、これは映像制作者にとって悩ましい問題で、ちゃんと対応しようとすると、時間もコストも余計にかかるのは間違いない。制作者側は現実に限られた時間の中で制作していて、フジテレビ側は再発防止に努める、と言っているが、この問題はそう簡単にはなくならないだろう。

 実際、私もチェルノブイリ関連映像などを見ていると、映像と字幕が合っていないのに気づくことがよくある。一次映像チェックしている人は語学的にも事柄的にも事情に精通している人で間違いのない人であるし、映像制作者側も悪意を持ってそうしたズレのある編集にしているとは思えない。むしろ、受け手のことを考え、仮に合っていないことに気づいていても、そうした方がわかりやすいから、ということでズレをあえて許容することも現場ではよくあることだろう。

 ちょうど昨日の7時のNHKニュースでサッカーなでしこジャパンの準決勝の試合後の宮間選手のインタビュー映像で「(決勝点は)ラッキーなゴールだった」という字幕があったのだが、これはおかしいと私はすぐに気づいた。これでは相手のオウンゴールをラッキーと表現する宮間選手に対して、ちょっと違和感を感じてしまった人もいたはずだ。私はニュースを見る前にインタビューを聞いていたので違うと気づけたが、改めて考えても、文脈からして、そんな取り違えはしないように思った。だいたい選手同士はお互い同じ境遇にあり、仲間という意識が強く、オウンゴールをしてしまった選手に対し、同情しない選手を探すのは難しいだろう。過去にはコロンビアのエスコバル選手のようにオウンゴールのせいで殺された選手もいたことはサッカー界では記憶されているはずで、相手のオウンゴールをラッキーなどとは思わないはずだ。

 私はこの宮間選手のインタビュー字幕の取り違えについては、意図的にやった可能性があるんじゃないかと邪推してしまう。ニュースで使う素材としてインタビューから切り取るには少々背景説明が必要になり、短い時間で正確に伝えるのは簡単ではないので。

 その後、視聴者から苦情・指摘があったのだろう、以下のような訂正が番組内で出ていた。

○彼女にとってはアンラッキーなゴール
×(決勝点は)ラッキーなゴール

 映像制作者、とくにテレビの作り手は「わかりやすさ」をとりわけ重視しており、悪意でというよりは、視聴者目線であまり理解するのには複雑過ぎにならないよう、気を遣いながら制作しているはずだ。しかし、これは見方を変えれば、視聴者をナメている、とも言えるかもしれない。そして、視聴者がそうした複雑さを許容できず、安易にわかりやすさを求めている実態がこうした状況を招いているとも言えるのではないか。世の中の出来事なんて、たいがい「わからない」がデフォだろうに。

 こうした状況を変えていくには、日頃からわかりやすさに安住せず、めんどくささに耐えられるよう、それぞれが日頃から鍛錬していくしかないのだろうけれど、個人的には、自分で映像制作してみるのが手っ取り早いんじゃないかと思うのだがどうだろう。今や簡単に映像編集できるツールが出回っていて、こうしてブログに文章を書く手軽さで軽い映像編集ぐらいは出来るようになっていて、デジタルネイティブ世代なら特にわけなく習得出来るはずだ。これからの世代には発信側にももっと多くの人に立ってほしいところで。