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今年はシャンソン歌手バルバラの死後20周年、そして今日はバルバラの誕生日

 今、フランス語がマイブームで、学生時代から離れていたシャンソンを聞いてるが、当時良く聞いていた歌手の一人にバルバラがいる。日本でも「黒い鷲」などで知られていて、クミコの「わが麗しき恋物語」の原曲の作者ということでも知られている。

 私がバルバラを初めて聞いたのは、シャンソン集の中のジャック・ブレルの「行かないで」のカバーで、その歌い方は何か居住まいを正さずにはいられない迫力に満ちていて、バルバラ・ベスト盤などを買い求めるようになった。ちなみに「行かないで」は様々な歌手に歌われていて、フランス語版Wikipediaを見ると30人ぐらいにカバーされているようで、英語やヨーロッパ諸言語はもちろん、行かないで_(ジャック・ブレルの曲)を見ると日本語でも歌われている。また、フィギュア・スケートの曲としても時々使われているようだ。

 前の投稿でボブ・ディランについて書いたが、バルバラもボブ・ディラン同様にユダヤ系で、バルバラはヨーロッパということもあり、ナチスのホロコーストの脅威を直接受けており、その歌詞には死が常にまとわりついている。

 バルバラもボブ・ディラン同様、本名は別にあってモニック・アンドレ・セールという。セール(Serf)とはフランス語で封建時代の農奴を指すみたいだが、この姓がユダヤ系を示すのかどうかはわからない。また、バルバラの母方の祖母はオデッサ生まれのようで、Varvara Brotdsky(ヴァーヴァラ・ブロツキー)という名前だったとのこと。ボブ・ディランの祖母もオデッサ出身だったが、オデッサでボブ・ディランとバルバラがつながるとはなんというか、自分的にとても意表を突かれた感じ。

 バルバラには名曲が多いが、『小さなカンタータ』という曲が今のマイ・フェイバリット。2分程度の曲で、小品という印象だが、「シ・ミ・ラ・レ・ソル・ド・ファ」という印象的なフレーズが繰り返される中、亡くなった親友とのピアノを通じたやり取りが歌われる。歌詞は、親友の死後、一緒に弾いていた曲を弾くが、親友のように流麗には弾けないと嘆きつつ、親友のセリフとして「ほら、私が弾くから、あんたはさあ歌って、歌って、私のために」という歌詞がこの歌の中ではやや異質なささやくような声で歌われたりして、感情が揺さぶられる。他にも様々な趣向が凝らしてあって、技巧的にも素晴らしいと感じられる。

 ボブ・ディランが今回のノーベル賞受賞講演で述べた「音楽は人を感動させることがすべて(If a song moves you, that’s all that’s important.)」という言はまったくそうで、バルバラの曲や歌い方は人を感動させずにはいられないものがあって、「イージーリスニング」とは対極にあり、あまり気軽に聞けないのだが、それでも、こうした感動を求めて、これからも何度と聞くことになるだろう。

 ゴダールの『気狂いピエロ』で映画とは何かを聞かれたサミュエル・フラーは「一言でいえば、感動だ(In one word, Emotion)」と答えるのだが、歌にかぎらず、様々な表現行為はつまるところ、ここを求めるものなのだろう。

 もっとも、私の場合、日々感動してたら身が持たないので、何かにつけ「イージーリスニング」的なのに流れがちで、あまり最近はこうした創作物に触れる機会が少なくなっているが、それでもボチボチと触れていきたいと思っている。

 こちらは「小さなカンタータ(Une Petite Cantate)」を歌うバルバラの映像。関心のある方はどうぞ。