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原節子追悼で放映された小津安二郎監督の『東京物語』を見た

 先週からずっと保育園関係などで奔走中で、ゼムリャキのタマーラさんたちの講演に行けたらと思ってたが、いろいろあって行けなかった。

 そんな中、原節子追悼で放映された東京物語を録画しておいたのを子供が寝た後、見始めた。見てる途中に子供が起きてしまったため、そこで見るのをやめて、翌朝、続きを見たのだが、また子供が起きてきて、抱っこしながらの鑑賞となった。子供は膝の上でまた眠りについたのだったが、後半に入って話が佳境に入り、感涙することしきりで、朝から見るものではなかったかもしれない。

 東京物語はもう何度も見ていて、大枠の筋書きは頭に入っているのだが、昔から「忘却力」が強いこともあって、ストーリー展開を忘れてるところが結構あり、今回も堪能してしまったのだった。前回見たのはいつだったかなと思って、2003年頃から出来るだけつけるようにしている映画メモを見るともう10年以上前で今回で5回目の鑑賞となるようだ。

 メモにはこんなことが書いてあった。

前回見てからまだ数ヶ月にもならないと思うが、前回もそうだったが学生時代に見た時には感じなかったことを感じたと思う。学生時代に涙が出ることはなかったが、もう年を取り、いくつかのやりきれない現実を前にいろんな経験をした後で見るとまた違った角度で見ることが出来る。やはり未亡人役の原節子とは母親役の東山千栄子のやりとりは涙なしには見られない。今の自分の境遇と将来への見通しの無さがどうしてもだぶってしまう。この作品が世界的にも高い評価を得ていることがどう理解してよいのか今だによくわからないが、これからの人生あと何度か見ることになる作品であろうと思う。

 当時は会社を辞めたばかりぐらいで、今後どうやって食べていこうか、というより、どうやって生きていこうかをよく考えていた時期で、しかし、祖母の面倒を私以外に誰も見てくれそうもない状態にあって身動きがとれず、原節子演じる紀子の言う「何かを待っている」状態だったように思う。その後、結局、なぜかチェルノブイリ被災地に行くことになったりし、さらには一生独身で行くつもりが子供が出来て、方向性が大転換されてしまったわけだが、今回は、今まで見た時よりもさらに様々な人生経験を経たこともあり、昔よりも自分的に泣き所が増えていたし、各場面をより深く理解したように思う。

 特に杉村春子演じる夫婦の子供にあたる美容院店主の長女の身勝手な感じは自分の身近でも思い当たる節が大いにあり、祖母の介護をめぐって押し合いへし合いしたことを思い出したりした。結局、独り身で決して暇ではないが「自由になる時間」のある人が損をするような役回りになりがちで、この映画でも未亡人で子供もいない紀子がそうした立場にいる。例えば、葬式が終わって会食しているときに、長女は自分は用事があるため帰京したい旨を述べた後、「紀子さんはまだいいんでしょ」と厚かましくもさらりと言ってしまうあの感じは、聞き覚えがある嫌な感じだ。

 先日、ちょうどこの映画の紀子と同じぐらいの年齢の女性が「何のために生きてるか、ふと分からなくなることがある」などと言っていて、その人も兄弟の間で親の世話に関して意見の相違があるらしく、独身であるがゆえの損な立場にいるようだったが、こういう場合、得な立場にいる者は「暇なお前が面倒見て当たり前」的な態度を知らず知らずのうちに取りがちで、映画の中でまだ若い先生をしている末っ子の京子のセリフのように世の中は「他人同士でももっと温かい」はずなのだが、紀子が言うように「誰だってみんな自分の生活がいちばん大事になってくる」わけで、それはそれで真実だったりするのだ。私自身もつい被害者面を強調しがちだが、思いがけないところで他の人に負荷をかけていることに気づかずにいることがままあるわけで。

 小津は東京物語について「親と子の成長を通じて、日本の家族制度がどう崩壊するかを描いてみたんだ」と述べているが、この時代からさらに世代が二つほど進んだ今の目で見ると、離婚経験のあるような人は出てこないし、兄弟仲も決して悪いわけではない。そもそもが5人の子供を育てあげ、そのうち3人が東京へ、1人が大阪へ行ったという老夫婦の話で、映画の中でも述べられているが、この家族はかなり「いい方」なのだ。ただ、映画中で年を取ってから出来たひとり子を甘やかして育てたばかりに、子供から邪険に扱われているという同郷人に対し、笠智衆演じる主人公の老夫婦の夫は、同様に子供の現状には満足していないが欲張ったらキリがないので諦めるしかないと述べる。「東京は人が多すぎる」というのを理由の一つとしてあげているが、「平気で親を殺す奴もいる」というセリフなども、東京物語の時代と今は、さほど変わりはないんじゃないかと思えてくる。

 東京物語は戦後8年目の作品で戦争の影が色濃くあり、それは次男の戦死であり、また、同郷人の服部の子供2人の戦死であり、服部は「もう戦争はこりごり」と言う。現代日本で戦争のリアリティを感じる機会はあまりないが、改めて、戦争を経て今の日本があることを感じたりもした。

 ともかく、様々な観点から気づきを得ることができる作品で、イギリスの企画で監督が選ぶ作品の1位に選ばれた作品であり、外国人がどのような点で本作に感銘を受けているのか知りたくなってきた。今はちょっとその時間すら取れないが、これから調べてみたい。

 あと、『「東京物語」と小津安二郎: なぜ世界はベスト1に選んだのか (平凡社新書)』という本が出ていて、こうした本が出ているのを知ってはいたが、残念ながら未読。旬の今、読んでみようかと思っているところ。著者は大学の映画サークルの先輩の先輩らしく、その方からその存在を知った。また読後に感想を書いてみようと思う。