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故沢野伸浩さんのこと

 先ほど、今中哲二さんの「最後」の原子力安全問題ゼミでの講演をアップロードしたところなのだが、講演の中で、故沢野伸浩さんのお名前が出ていた。今中さんは明石昇二郎さんから面白い人がいる、と紹介を受け、沢野さんが米国NNSAのデータに基づいて作成した、セシウム137の沈着量を等高線で示した地図を見て、これで外部被曝のみではあるが、飯舘村の人たちの初期被ばくの見積もりができると確信した、とのことだった。

 米国エネルギー省(DOE)の国家核安全保障局(NNSA)は福島第一原発事故直後の3月17日から福島県上空に航空機を飛ばし、放射能を実測したが、その生データが2011年10月21日に一般公開され、沢野さんはその公開の約一ヶ月後に「偶然」それを見つけ、汚染地図を作ってみたのだという。その時の様子はブログにアップされた、とのことだが、現在、そのブログは見られない。代わりにarchive.org内のこちらこちらのページを見ると、当時の様子がいくらか分かる。

 当時、沢野さんはこのデータはアメリカから日本政府に提供され、このデータに基づいて汚染マップが作成され、避難や除染に活用されているものと思ったらしいが、実際は十分に活用されているとは言いがたい状態であったことが後に分かり、飯舘村にも実際に行かれるなどして、少しずつ福島に関わるようになったようだった。

 この生データはKMZというGoogle Earthなどで使われるファイル形式であるKMLをZIPで圧縮したもの、とのことで、KMLはXMLベースであり、テキストファイルとして開くと、中身はタグや数値だらけで、それだけ見てもなんだかよくわからない文書、ということになる。例えば、Googleのドキュメント群がこちらにあるが、そこのサンプルファイルをダウンロードしてメモ帳か何かで開くと分かってもらえると思う。

 XML文書の解析は、意外と面倒で仕事で扱ったことがあるが、なかなか厄介な代物であった。仕様がしっかりしてるといいのだが、よいXMLパーサーをかますといい感じに見えるようになったりする。

 話を戻すと、エクセルやワードなど多くの人が使い慣れているファイル形式ではなく、そういうやや専門性の高いファイル形式で震災直後の混乱期に文科省の元にそのファイルが届いたようなのだが、どうもその扱い方がわからなかった可能性があり、有効活用される気配がないのでアメリカはこっそりと震災の年の秋に一般公開を始めた、という見立てがあるそうだ。

 真偽不明であるが、ありそうなことだと思う。別に文科省をDisるつもりはなく、混乱期に次から次へと降ってくる玉石混交の情報の嵐の中でこの「玉」の方の情報が見過ごされてしまったんだろうと私も思う。

 沢野さんはこの辺りを確認すべく、アメリカ大使館にまで確認に出向いたが、結局、真偽のほどはわからずじまいだった。

 ちなみに沢野さんは英語も大変堪能だったようで、スピーキングも大変お上手であることが伺われた。私は沢野さんとは一度だけ飯舘村調査の時に初期被ばく調査のための現場下見に行かれた時に同行しただけなのだが、車内での四方山話で、コンピュータにも造詣が深く、インターネットには日本では最初期に関わった人の部類に入るようだった。

 その昔、UNIX USERという雑誌があったのだが、そこに「ルート訪問記」という連載記事があったのを知る人は、今の若い人だとほとんどおらんのではないかと思う。ルートとはUNIX文化のrootという特別な全権ユーザのことで、要するにサーバ管理者という程度の意味なのだが、そのルート訪問記にも出られていた、と知って、とても驚いたのだった。こちらの「第11回 窓から見えるは星と未来と現実と」というサイトで読むことが出来る。

 ちなみに沢野さんは1997年には「ネットワーク・コンピューティング・リテラシー」という本を上梓されていた。

 GPSについての話も興味深く、今でもよく覚えている。GPSは複数のGPS衛星からなり、数が多いほど精度が増すが、現在、アメリカがこの分野でも抜きん出いていて、ロシアや中国が対抗しようとしている状態となっているようだ。こちらによると、2014年12月現在で全世界のGPS衛星の数は「アメリカが32、ロシアが24、EUが4、中国が16の合計76個」ということになるようで、日本はそもそもこの中にも入れていない状況らしい。実運用するにはGPS衛星が少なくとも4つだったか6つぐらいは必要とのことだった(うろ覚え)が、はやぶさもいいけど、こういう実用性の高い分野にも資源を振り分けたほうがいいんじゃないか、と思えたし、また、そもそもが軍事目的なので、ある地域で使えなくする、というようなことが出来るのだそうで、この話を聞いた時、日本はもう少し実力を蓄えるまで属国のままでいた方がいいのではないか、とすら思ったのを覚えている(冗談だが)。

 たまたま1週間ほど前の記事でGPS衛星でエラーが発生、複数企業で12時間ものシステムエラー発生の原因にというのがあったが、GPS(というか、GPSはアメリカのシステムの名称らしいので、より包括的にはGNSSというらしい)に依存している現代社会でこういうことが今後も頻繁に起こらないとも限らないわけで。

 ともかく、沢野さんは大変刺激的でエネルギッシュな方だったのだが、去年、亡くなられたと聞いた時は本当に信じられなかった。

 ネットで検索をかけてもあまり情報は出てこないが、近かった人ほど、書けないものなのだろう。私は沢野さんのごくごく一部分しか知らないが、とても魅力的な人がいて、重要な仕事をされた、ということを伝えておきたかったので、以上、書いた次第です。

※参考文献:本当に役に立つ「汚染地図」 (集英社新書) 沢野伸浩(著)