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ザポロージェ訪問記5 欧州最大の原発・ザポロージェ原発へ

 さて、いよいよザポロージェ原発(ザポリージャ原発)構内へ。ビデオカメラを持っていったのだが、完全に裏目に出て、外国人というのもあって、マークされてしまい、ほとんど撮影は出来なかった。

 ただ、原発周辺は当然ながら警備が厳しく、あちこちに検問所があり、軍や警察関係にはカメラを向けないように、と常日頃からサーシャに言われていたので、いずれにしても撮影はしなかったと思うが。

 もっとも、チェルノブイリでもそうだが、撮影するなとやいやい言われてもこっそり撮影する人はいて、こういうのは人生観の違いってことで。

 ところで、数ヶ月前、武装勢力がザポロージェ原発に侵入を試みる、という事件があったばかりなのだが、あちこちに検問が出来ていて、通れるはずのところも通れなくなっていた。こちらの記事「ウクライナ:原発安全性、独が懸念」(毎日新聞 2014年08月28日)を一部引用しておく。

同原発は、政府軍と親ロシア派武装集団の戦闘が続く東部ドネツクから西にわずか200キロしか離れておらず、5月には武装グループが侵入を試みる事件も起きており、ドイツでは「安全確保の要員を送るべきだ」との声もある。

5月に「武器を持った」集団が同原発施設に侵入を試み、警察に阻止された。この集団の素性は不明だが、極右組織が「親露派の攻撃から守るため」と自衛を理由に突入したとの情報もある。

 とにかく許可された時以外は撮影するな、と再度全員に注意がなされた上で構内へ。まずは燃料棒についての説明を受ける。

VVER型原発の燃料集合体(未装填)
VVER型原発の燃料集合体(未装填)

 VVER型(ロシア型加圧水型原子炉)の燃料集合体で正方形でなく、六角形になっている。情報センターでは福島原発の事故は加圧水型の原発でなかったため、という説明もなされていたが。。。

 そして、いよいよ制御室内へ。様々な計器のある独特の空間を通り抜けて行く。

 見学者全員が制御室に入ったのを見届け、担当者氏は説明を開始。多分出力調整だったと思うが、モニター上の数値をある数値で止まるように、実際に制御しながら説明された。そして、ひと通り説明が終わったかな、という頃に氏はおもむろにあるスイッチを操作し、危機的状況を作り出し始めた。モニター上の数値がみるみる低下しはじめ、やがて、けたたましい警告音が響き渡り、部屋中のあちこちで赤ランプが点滅し、制御室はものものしい雰囲気に包まれた。そして、見学者の一人を操作盤の前に座らせ、普段は蓋が閉められているスイッチをその蓋を開けて押すよう指令し、さらに、Windowsで”Ctrl + Alt + Delete”を押すような具合に3つ並んでいるボタンを同時に押すことで騒動が収まったのだった。

 さすがのサーシャも「こんなのは見たことがない」というほどで、みんな興奮冷めやらぬ様子。正直、私は担当者氏の理系特有の技術用語の多いロシア語の説明を理解できていなかったこともあって、その昔、ハワイでアメリカの原子力潜水艦の艦長が見学者にいいところを見せようとして宇和島の高校生の乗った船とに衝突した事件のことを思い出したりしていたのだが、いらぬ心配だったようだ。

 しかし、日本の原発見学でこうした演出が出来るものなのかどうか。恐らく「ふざけてる」だのなんだの言われるので、一般向けにはまず無理だろう。というか、そもそも制御室にまで入れないか。では内輪向けだとやったりするのかどうか。多分やらないだろう。国民性の違いでおしまい、という話なのかもしれないが、いろいろと考えてしまった。

 その後、許可が出て写真撮影タイムとなったのだが、様々な人が写り込んでいたりするので、ひとまずこの縮小画像だけアップしておきます。

ザポロージェ原発・制御室内

 制御室内の様子で気づいたことといえば、あちこちにいくつもむき出しの監視カメラがあり、嫌が上でも「見られている」感があって、こっそり撮影しよう、なんて気になれるものではなかった(やっぱしようとしてたんかい、というツッコミはなしでよろしくです)。また、技術自体はソ連時代のものであるので、当然ながら最新のハイテク設備という感じではなく、計器類はアナログな感じであったが、モニターは液晶のやつになってたりして、新旧混在してる感じ。一応、CRTもまだ健在だったが。また、イコンという、平たく言えば、日本の家だと神棚、車では交通安全御守のような意味があるキリスト教の正教の聖画像があるのだが、それが計器類のところにちょこんと置かれていたのも印象的だった。科学の粋を集めた原子力技術も最後のところは神頼みということになるのか。

ザポロージェ原発食堂で食事
ザポロージェ原発食堂で食事

 「粋な」演出をした担当者氏に見学者一同、感謝の意を伝え、原発構内を出る。その後、チェルノブイリ原発にもあるような食堂で食事をいただく。メニューにはやはりボルシチがあり、さらに肉とジャガイモのピューレ、キャベツのサラダ、そして、フルーツのコンポート、というウクライナではポピュラーな食事内容。

ザポロージェ原発のカレンダーカード1
ザポロージェ原発のカレンダーカード1

 帰りのバス内でカレンダーカードが配られ、お土産としていただく。下の文字はウクライナ語で「安全、信頼、発展」とある。

ザポロージェ原発のカレンダーカード2
ザポロージェ原発のカレンダーカード2

 こちらのカードは原発手前の噴水が印象的。この噴水は原子炉の熱を取って温まった冷却水を空冷するための装置で、ちょうど我々の乗ったバスもこの噴水の横を通ったのだが、いやはや噴水のバックに原発がある様子はシュールではあるのだが、なんとも幻想的な光景であった。加圧水型の二次冷却水だから出来る芸当なんだろうけど、放射能漏れが100%ないと言い切れるのかどうか。ちなみに私のエアカウンターExは概ねずっと0.02μSv/h程度を示し続けていた。

ザポロージェ原発前で写真撮影
ザポロージェ原発前で写真撮影

 最後にАЭС(Atomic Electric Station)の文字をバックに記念撮影。もちろん、許可を得ての写真で、バスで隣の席に座ったお兄さんが撮影して送ってくれた。チェルノブイリでもそうだが、こういうところではこの位置からの写真はOKという場所が設けられているものらしい。

(追記)
ザポロージェ原発の噴水冷却のビデオをアップしてる人がいたので、リンクしておきます。

ザポロージェ訪問記4 ザポロージェ原発の衛星都市エネルゴダール

 いよいよザポロージェ原発の衛星都市エネルゴダールへ(ウクライナ語読みはエネルホダール)。

ザポロージェ原発の衛星都市エネルゴダール
ザポロージェ原発の衛星都市エネルゴダール

 エネルゴダールはエネルギー(Energy)をダル(give)するという意味(Город, которой дарит энергию)。オデッサの近くにはテプロダルという街があるが、こちらはテプロ(熱)をダルする、という意味。

ザポロージェ原発情報センター
ザポロージェ原発情報センター

 日本でも原発のある街には必ず広報センターがあるが、当地でも同様。

ザポロージェ原発模型
ザポロージェ原発模型

 欧州最大の原発と言われるザポロージェ原発は、ウクライナ全体の原発発電量の実に半分をまかなっている。同一形状の原子炉建屋が6つ並ぶ様は壮観ではあるが、福島原発事故でも指摘された各建屋間の距離の近さが気になるところではある。

ザポロージェ原発周辺地図
ザポロージェ原発周辺地図

 ザポロージェ原発という名称だが、ザポロージェ市内から車で100km以上あり、キエフとチェルノブイリ原発と同程度の距離がある。福島原発といっても福島市からは遠く離れているのと同様で。ただ、貯水湖をぐるっと周るので、直線距離だと50km程度か。

ザポロージェへの避難者に関する新聞記事1
ザポロージェへの避難者に関する新聞記事1

 現地紙の記事。表題には「ザポロージェ州内への避難者たちの間で約50人の子供が生まれた」とある。

ザポロージェへの避難者に関する新聞記事2
ザポロージェへの避難者に関する新聞記事2

 こちらの記事には「街の人たちは困難な状況にあるドネツクとルガンスクからの避難者を支援しているが、こうした支援は住居費の上昇を招いた。今後、失業率上昇を招くかもしれない。」とある。隣接する州であるだけに、出来るだけのことはしたいが、住民サービスを低下させるわけにはいかず対応に苦慮している様子が伺える。

ザポロージェ訪問記3 ザポロージェからエネルゴダールへ

 ザポロージェは産業都市で、ソ連時代よりザポロージェッツという車を生産していて、今も各国の様々なメーカーの車を作っているらしく、あちこちで工場の姿をみかけた。また、自動車以外の産業も盛んなようである。ただ、大気汚染の問題があるようで、チェルノブイリ事故時の避難者がここからさらに再避難した、という話もある、とのこと。

ザポロージェ市内
ザポロージェ市内

 産業都市だけあってか、ザポロージェ市内は複数車線の道路が多く、走りやすそうだった。

ルーフキャリアにスイカを載せた車
ルーフキャリアにスイカを載せた車

 日本では車のルーフキャリアに載せるものは、営業車が脚立などを載せてたりする以外はスキー・スノボとか自転車などレジャーものが多いが、ウクライナではこういう光景も時々見る。鶏など生き物が載ってるのも見たことがある。

ウクライナ語表記の看板広告
ウクライナ語表記の看板広告
ロシア語表記の看板広告
ロシア語表記の看板広告

 東部は初めてだったので、街の看板や広告の表記がウクライナ語かロシア語か、注意して見ていたが、ロシア語の看板の方が多いように感じた。ただ、ウクライナ語の看板もたくさんあった。

マリウポリと書かれた道路標識
マリウポリと書かれた道路標識

 道路標識はもちろんウクライナ語表記。マリウポリはドネツク州の臨時州都となっている港町で、こちらでもドネツクほどの激戦地にはなっていないようだが、戦闘が続行中。ザポロージェからの距離は200km程度なので、実は今回、訪問を検討したのだが、子連れでもあり、アホな自称ジャーナリストが死亡、なんてなったらシャレにならんので、自重した。

ウクライナのガソリン価格
ウクライナのガソリン価格

 休憩も兼ねてガソリンスタンドへ。ガソリン価格は1リッター17グリヴナ程度で日本円で約150円程度。現在下落しているグリヴナの通貨価値を考えると日本と同程度と考えられるが、所得水準を考慮すると現地感覚では相当高い。

貯水湖沿いを突き進む列車
貯水湖沿いを突き進む列車

 日本では機関車が客車を引っ張るタイプの列車はむしろ贅沢な乗り物になってしまったが、ウクライナでは都市間移動の主役として今も庶民の足となっている。

テロ対策の検問所
テロ対策の検問所

 テロ対策のため、幹線道路にこうした検問が何箇所かあった。粗い画像でなんやようわからんかもしれませんが、赤白縞模様のコンクリの塊が路上に横たえられているため、車はジグザグに進んで抜けていきます。

 ちなみにエネルゴダール入りするときの検問はさすがに厳し目でしたが、こうした幹線道路では比較的すんなりと通してもらえるようでした。

ザポロージェ訪問記2 ザポロージェのレーニン像

 先日、ハリコフの欧州最大という巨大レーニン像が引き倒された、という記事(巨大レーニン像受難=民族主義派引き倒す-ウクライナ東部 時事:2014/09/29)が出ていたが、ついこの間、ザポロージェのレーニン像を撮影してきたばかりなので、アップしておきます。

レーニン像600

 これが私が初めて目にした時のレーニン像であった。風の具合でそうなったのか、あえてウクライナ国旗でレーニン像の顔を包むことで何かを意図していたのか、どちらなんだろうと思っていた。

レーニン像605

 少し間を置いて、再確認すると、上の写真のような状態になっており、特に意図はなかったことが判明した。(電線が邪魔ですが、トロリーバスのものです)

 ちなみにレーニン像の背後には1932年にドニエプル川で初めて作られた水力発電所がある。上の写真のレーニンの背後の右側には水面が見えるが、左側には見えないので、その間の建造物がダムであることがわかっていただけると思う。

レーニン像607

 ダムの上には道路があり、車が往来していて、橋の欄干がウクライナカラーに塗られているのがわかる。

 この黄色と青のウクライナカラーは今回あちこちで見ることになったが、ユーロマイダン以降、大幅にウクライナ全土の街中で増えたように思う。

レーニン像608

 反対側から見たレーニン像。

レーニン像610

 こちらは夕方、近くまで行って撮影したレーニン像。

レーニン像620

 朝、首に巻かれていたウクライナ国旗が、夕方には腕にいい感じにかかっている。

レーニン像630

 台座部分ではソビエトの労働者が額に汗して働いている(?)。

 そして、つい先程、たまたまTLに出てきてびっくりしたのだが、今日、ザポロージェのレーニン像が着替えをしたらしい。

 こういうのってどうやってやってるんだろうと、思ってたが、ちゃんとクレーンを使ってたようで。

 さらに、ハリコフではこれ以上レーニン像を倒されないようにするためにレーニンに十字架を建ててる、とのこと。

ザポロージェ訪問記1 ウクライナ東部のコサックの街・ザポロージェへ

 アトムグラード(Atomgrad)なるイベントがあると聞いたのは、pripyat.comのサーシャからだった。聞くと、ソ連時代に建設された産業衛星都市についてのイベントで、プリピャチについて詳しいサーシャも呼ばれた、とのことで、私たちも急遽参加させてもらうことにした。

 開催場所はウクライナ東部のザポロージェ(ウクライナ語読みではザポリージャ)で、現在戦闘が行われているドネツク州に隣接するザポロージェ州の州都である。東部ではあるが、ドネツク州内に入らない限り、安全に問題はないと判断し、子連れではあったが、訪れることにした。

 キエフからの移動は列車で行くことにした。希望に合う夜行がなく、朝7時に出る列車で行くことになり、早起きして出発。

 列車は巷で噂になっていたヒュンダイ製の列車。冬季に立ち往生する事態が発生したことで「全面運行中断」という話もあったようだが、今もこうして普通に走っている。こちらのWikipediaの現代ロテムの項目にはには「2012年冬に寒波による運行トラブルが続発している。現代ロテム側は冬季における試運転不足を認めた」とある。

車内販売のお兄さん

 ウクライナで車内販売のある列車に乗ったのは初めてかも。いつもは事前に買い込んでおくのだが、事前に分かっていればこれを利用するのもありかも。食堂車というほどではないが、軽食や飲み物を提供する車両もあった。

ヒュンダイ製列車内トイレ

 いろいろ言われてるが、基本的には快適ではあった。トイレも広々としていて、夜行列車でよくあるように水浸しになって床などあちこちが汚れているようなことはなかった。ただ、だだっぴろいトイレにオムツ交換台がなかったのはマイナスポイントとのこと。

ウクライナ鉄道の女性駅員

 ウクライナ鉄道では女性駅員が多い。しかし丈が……。

ザポロージェ駅

 そうこうするうちにザポロージェに到着。キエフから7時間かかったがこれでも早い方である。子供が何度かグズったものの、デッキに出るなどして対応。特に舌打ちされることもなく(笑)、無事移動出来た。

A4用紙に印刷されたキエフ・ザポロージェ間の切符
A4用紙に印刷されたキエフ・ザポロージェ間の切符

 運賃は348.40フリヴニャ。今、フリヴニャレートが悪くなっているので、日本円では約3000円程度になる。日本の新幹線感覚でいくと時間はかかるが、安く移動できる。ただ、当地の人にとっては新幹線価格ではあり、より安価なのを好む人、あるいは、列車の密閉空間が嫌いな人は長距離バスに乗るようだ。

(つづく)