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トランプ支持が広がる今、アフリカ人始祖から親子三代の黒人奴隷の物語を描いたテレビドラマ『ルーツ』を見る

 アレックス・ヘイリー著『ルーツ』をテレビドラマ化したのがBSで放映されてたのを運良く録画でき、やっと見終わったところ。少しずつ見ていたのだが、最後の方は一気に見る、という私的によくあるパターンw テレビドラマ「24」で黒人大統領が登場し、その後、実際にオバマというアメリカ史上初の黒人大統領が誕生した今、黒人に対する差別を実感として理解できない世代が登場してるんじゃないかと思ったり。

 以下、ネタバレ大いに含みますが、このドラマの場合、ネタが分かると面白さ半減とかにはならない類だと思うので、そういうのは意識せずに書きます。

 英語の勉強をしているとキング牧師の”I have a dream”の演説を読む機会が訪れ、結果的に、公民権運動というのを知ることになる。なので、意外とあの時代のことはある程度、今の若い人にも知られてるんじゃないかと思うが、奴隷制の時代のことはなかなか知る機会がなく、私自身ももやっとしている。アフリカから奴隷船で運ばれ、リンカーンの奴隷解放宣言まで長く奴隷状態にあった以上のことはよく知らない。

 アメリカ南部には行ったことがなく、その空気感はよくわからない。アメリカ西部旅行中に店やドミトリーの宿などで黒人と何度か話したが、普通にナイスガイたちで、一度、トイレでションベン引っ掛けられそうになったりしたけど、印象としては白人からのアジア人に対するしょうもないちょっかいや言動の方が記憶に残っている。

 ドラマについて、まず思ったのは、どこまでが史実に即していて、どこからがフィクションなのか、ということで、この辺り、原著者はfact(事実)とfiction(創作)を合わせたfaction(ファクション)という言葉を用いて、ノンフィクションとフィクションの中間物であると述べている。得てして、ノンフィクションは背景の理解が難しく退屈になるところがあって、広く訴求させるためにこうした方向性の翻案が必要になるというのは理解できる。これで関心を持ってもらって、もっと知りたくなったら、関連の書籍などで自分で調べればよいわけで。

 アフリカ生まれの第一世代からそのひ孫まで主役級の人物は4人いて、それぞれに個性的で人物造形がうまくなされているし、役者さんも脇役含め、皆よかったが、中でもいちばん強い印象を与えたのが第ニ世代のキジーという女性。このルーツというドラマの主人公を一人あげるとしたら、時間軸上もっとも長く登場する、この女性になるだろうし、彼女の受ける仕打ち、またそれに対する行動や毅然とした振る舞いは多くの人に感銘を与えたようで、キジーという名前を付けるのが一時流行したらしい。

 特に幼少時から友達として過ごした白人のお嬢さんが手のひら返しをし、さらに何十年ぶりかで再会した時も知らん振りをされた、というエピソードは痛切で、その関係性をよく物語っている(キジーはきっちり仕返しもするわけだが)。ドラマ中、自分が白人であること以外に取り柄のない(というかそれを取り柄といってよいのか?)、と言いたくなるような憎たらしい白人が何人も出てくるが、アメリカの国内問題の多くは結局、このダメ白人問題なんじゃないか。さっきも書いたが、旅行中に嫌な思いをしたのは大抵白人がらみだったと思うし、根底にどこか抜きがたい差別意識があると感じた。エスタブリッシュメントっぽい白人と話してても、どこか「アジア人と話してるオレってリベラルだろ」的なんをちょっと感じたり。いや、こちらが卑屈すぎるんかもしれんが。

 「ルーツ」で検索してたら、こんな言葉が出てた。

ないから生まれるんだ。
中国人は道徳心が無いから儒教が生まれた。
日本人は勇気がないから武士道が生まれた。
アングロ・サクソン人はずるいからフェアプレーの精神が生まれた。

 それに対して、それは各民族の理想が掲げられてんじゃね的なリアクションもあったが、アングロサクソンについてはちょっと当たってるかも、って思った。時々思うのは、スペインが世界制覇したまま、近代に突入していたら、全然別の世界になってたんとちゃうかな、と。アメリカ大陸で現地人との混血に向かい、白人だけの国を作らかなったスペイン人と、インディアンや黒人コミュニティーと隔絶した社会を作り上げたアングロサクソン人。表向きは正義と言いながら、自分に都合のよい正義だったりするその言動。中高時代にサッカーをしててすんなり理解できなかったのは、ユニフォーム引っ張ったり、手で邪魔したりして、ちょっとぐらいは悪いことをしてもいい、というルール。今の資本主義社会もその辺をうまく理解して合法的に悪いことしたもんが勝ちってことになってて、パナマ文書問題の根底にもそれがある。

 話がずれていったが、元に戻すと、トランプ支持者ってのは、このドラマに出てくるようなワル白人だったりするんじゃないかと。ヒスパニックの増加に怯え、黒人やアジア人が普通に社会の中で重要な地位を占める時代についていけず、取り残された人々。ただ、このドラマの中のワル白人の中でも、多少はマシな白人(法には従う意志は一応ある保安官など)も出てくるし、さらに興味深いのは、主人公たちの黒人コミュニティーに入り込む白人夫婦が一組いたこと。こういうことが実際によくあったとはとても思えないが、彼ら自身も生きるのに精一杯な貧困状態にあり、ヒューマニティからとかそういうのではなく付き合っているところなど、それが逆にリアリティがあるようにも見える。彼らはこのドラマの中で重要な役割を演じていて、ただ単に黒人を解放したらおしまい、とはならず、そうした憎しみの連鎖を断ち切ることが大切であることを示している。

 アメリカは21世紀も最も重要な国であり続けるだろうし、もっとアメリカの歴史を知っておかないといかんなと改めて思った。