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オバマ大統領の広島スピーチ中の”gassed to death”は「ガス室で死んだ」と訳すべきなのか

 昨日書いたエントリーオバマ大統領の広島スピーチを聞いて感じたことに対し、以下のようなコメントをいただきました。

「数年の間で6千万人もの人たちが亡くなりました。男性、女性、子ども、私たちと何ら変わりのない人たちが、撃たれ、殴られ、行進させられ、爆撃され、投獄され、飢えやガス室で死んだのです。この戦争を記録する場所が世界に数多くあります。」この中の「ガス室で」の「室」が余計です。原文にはありません。訳者はアウシュビッツなどを想起したのでしょうけど、広島は毒ガス製造をした大久野島(おおくのしま)のあるところ。仮にオバマさんが頭に置いていたのはアウシュビッツなどだとしても、大久野島で毒ガスを作らされた方たちが健康被害にあって十分な補償をうけていないことを知っていたら、原文にない「室」などつけられないと思いました。

 ざっと読みなおしたつもりでしたが、この部分は気づきませんでした。ちょっと興味を持ったので、各社どのように訳したか調べてみました。

・「ガス室」と訳した社
朝日日経

・単に「毒ガス」と訳した社
毎日NHK産経読売ハフポスト時事河北福島民友

 他にもあるかもしれませんが、傾向としては、原文に忠実に訳した社が多かった、ということになりそうです。

 ロシア語通訳の米原万理著『不実な美女か貞淑な醜女か』ではないですが、翻訳はわかりやすくしようとするとどうしても「不実な美女」寄りになって、意訳することになってしまい、原文にはっきりそう書かれていないことも訳す場合が出てきます。

 今回の場合、オバマの念頭にあったのは、その後に「無人の収容所」と言っていることから、やはりナチスによるホロコーストのことかと思われます。ただ、新井さんのおっしゃりたいことも分かります。

 私も十数年も前ですが、瀬戸内を自転車で旅行している時に大久野島の近くを通ることになり、訪れることにしました。そして、行くまであまりよく知りませんでしたが、毒ガス製造をしていたため、戦時中は地図から消された島となっていて、少なからぬ方が秘密裏に毒ガス製造に携わっていたことを知りました。(今はうさぎの島となっていて、癒されますが)

 朝日新聞社の訳は、「微妙な言い回しも含め厳密にチェックしたもの」と関係者が述べているので、おそらく、複数人でのチェック体制を通過して出されたものなのでしょうが、毒ガス兵器の犠牲者はホロコースト犠牲者以外にも存在しますし、日本国内の場合、それが広島県内だった、ということを考えると、確かに配慮があってもよかったのかな、と私も思ってしまいますね。

 スルーされるかもですが、ツイッターでその方に意見聞いてみますかね。