プーチン大統領訪日を機に北方領土問題や今回の日ロ首脳会談について思ったこと(1)

 プーチン大統領訪日の日程が終了した。アウェイであるにもかかわらず、遅刻術を多用したプーチンに終始ペースを握られ、領土問題についてもさして進展はなく、日本国内ではがっかりした、という意見が多いようだ。私はこの件についてそんなには追えていないが、北方領土問題や今回の件について思うことを書いてみる。

 ロシアに関わったことのある人なら誰でも、とっとと平和条約を締結して、関係を普通にしてほしい、と思ったことがあるはずだ。二国間関係が時の政治の影響で良くなったり悪くなったりすることはよくある話だが、ロシア(ソ連)とは良くなったことが戦後一度もない、と言ってよいだろう。なので、どんな形であれ、こうした膠着状態を打開しようとする関係者の努力には敬意を表するものである。

 今回のプーチン大統領訪日で日本側はあまり成果を得られなかったが、長い道のりの第一歩を踏み出すことはできたとはいえるのだろう。今回、運が悪かったのは、トランプ大統領が誕生し、このタイミングで親ロシアともいえる実業家が国務大臣に据えられたことがあり、ロシア側が譲歩しないことのちょっとした追い風にはなったであろうし、中ロ関係もまずまずの状態を保っていることなど、ロシア側が歩み寄るインセンティブがなかった。

 去年の9月の日ロ首脳会談で手応えがあった、ということが報じられ、日本側に前のめりの姿勢が見られたが、その後、トーンダウンしていった。これは「領土問題解決に対する過剰な期待」を抑えるためだった、とのことだが、どうしても、ロシア側に一旦は乗せられたものの、はしごを外された感が否めない。

 数少ない成果といえる共同経済活動については、相手が例えば同じ東アジアの島である台湾など、文化的バックグラウンドが比較的近い国(地域)ならともかく、メンタリティやら文化・宗教など生活習慣がまるで違うロシアという国との間で実施するのは、現実的でないと言わざるをえない。かつて社会主義陣営にあった国の商習慣は日本とはまるで異なっていて、行政なども賄賂の授受は当たり前で、そうした国の人々は賄賂を渡したり受け取ったりするのに慣れているものだが、日本も昔はあったとはいえ、そうした国相手のビジネスに慣れている商売人ならともかく、日本の通常の企業の商習慣とはいろいろと相容れない。これはあくまで平和条約締結するための道程の一つに過ぎず、一過性の試みに終わる可能性があり、あまり永続的なものとして制度設計すべきでないだろう。

 また、「特別な制度」が大きな穴となって、様々な物や人が日本国内にも入ってくることになるだろうから、この制度が日本の社会にとって、忌むべきものとみなされる恐れもあるように思う。それは日ロをますます遠ざけるものになるだろうから、その特別な制度は日本のともロシアのとも違うものにしないといけない。しかし、そうすると、ビジネスそのものが大変めんどくさいものになり、まったく盛り上がりにかけるものとなる可能性がある。そして、こういう場合、機を見るに敏な黒い紳士たちがわんさかやってきて、おいしいところをかっさらう、ということになりがちで、まともな企業ほど二の足を踏む、ということになってしまう。

 今回は信頼醸成の第一歩という位置づけだろうが、そもそも制度がロシア側のいいようにコロコロ変わる可能性があり、日本のメンタリティとしてそうしたやり方に信を置くのは困難でむしろ不信感が醸成されてしまう可能性もある。

 BBCロシア語のサイトに以下のような識者の意見があった。

Японская элита прекрасно понимает, что Россия два больших острова никогда не вернет, поэтому они готовы взять максимум – два маленьких. Но как объяснить обществу, что они навсегда отказываются от больших островов?

日本のエリートはロシアが二つの大きな島(択捉・国後)を決して返さないことをよく分かっているので、可能な最大(二つの小さな島、つまり色丹・歯舞)を取ろうとしている。しかし、どうやって二つの大きな島を永遠に放棄することを国民に説明すればよいのか。

 政府広報等で一般国民向けに「北方領土は日本固有の領土です」と言い続けてきたが、そのツケが今回ってきた、と言えるのかもしれない。今も四島返還以外に認められない、という向きもあるが、ポジショントークってやつだろう。

 私も折に触れて北方領土関連の本などを読んできたが、最終的な着地点はもう二島返還しかないのではないかと思う。戦争に負けたこと、アメリカの庇護下にいることで繁栄を一時謳歌したこと、時間が経過しすぎたこと、などがその理由だ。

 アメリカは今回の会談でも宗主国よろしく、日本側を牽制する発言をしているが、これまでの日ソ・日ロ交渉でもアメリカは大きな役割を果たしてきている。特に、今回プーチン大統領も会見で言及した、いわゆる「ダレスの恫喝」がそれなりに効いているのかもしれない。

 北方領土のロシア人住民は三世代目に入っており、すでに島々は彼らにとっての故郷となっている。仮に返還されたとして、彼らを退去させるのか。それは元島民も本意ではないと述べており、ロシア国籍のまま住み続けることを認めることになるだろう。返還後、北方領土に引っ越して居住する日本人はどれほどいるか。一時的にビジネス絡みで滞在する人は多数出るだろうが、多くは単身赴任で、一家で引越しするような人はほとんどいないはずだ。とすると、外国人が多数を占める地域が日本国内に出現することになる。二島返還の場合、色丹島が返還されることになるが、人口はWikipediaロシア語版を見ると2820人とある。在日外国人が多数を占める地域は確かに存在するが、そうした地域には日本人も混じっており、一行政区がほぼまるごと外国人で占められるような場所は戦後なかったはず。ロシア系住民と日本人との間で揉め事が起こらないとも限らないが、一体、どのように処理していくのか、事前によくよく検討しておかないといけないだろう。

(つづく)


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です