「チェルノブイリ」カテゴリーアーカイブ

ヨーロッパやロシアで観測されたルテニウム106はどこから来たのか

 ロシア測定局で高濃度放射性物質検出、9月末に「極めて高い」数値という記事が出てて、気になってたが、ロシア語圏のサイトをざっと見てみた。時間もないので、雑なまとめとなり、細部間違いなどもありそうですが、とりあえずあげときます。

 印象としては、放出源はロシア南ウラルにある核処理施設のマヤークが限りなく怪しいように見えるが、マヤーク公式が「ルテニウム106の製造はしていない」「核廃棄物関連の事故であれば、セシウム同位体その他ルテニウム106以外の核分裂片が出るはずなのに出ないのはおかしい」などの見解を出しており、その言い分もわからんでもない。

 ロシア当局は当初10月の観測データではサンクトペテルブルクのある一点でのみ検出されただけと述べていたが、ロシア水文気象環境監視局が騒ぎになる前から公表していたデータではマヤークから10~30km程度南に位置するАргаяш、Худайбердинский、Новогорныйといった地点で9/25から10/1の間に収集されたエアロゾル調査でルテニウム106が検出されており、こちらでは別に隠していたわけではないのだと述べられている。

 マヤークを運営するロスアトムもジャーナリストやブロガー向けに「ルテニウムって何?」という調査ツアーを企画しており、マヤークが放出源ではないことにそれなりの自信があるのではないかとも思える。

 ルテニウム106は医療分野や宇宙関連で有用な物質であるが、核分裂生成物のせいぜい0.4%に過ぎないらしい。こちらは核分裂生成物収率曲線で、質量数で見るとセシウム137の辺りとストロンチウム90辺りに2つの山があるが、106はちょうどその2つの山の間に位置している。このような貴重な物質を故意に放出する、というのもまず考えられないとのことで、廃棄という線はなさそう。

 宇宙関連で衛星などの落下や事故の可能性が指摘されたが、これもこの時期にそうした事故は起きていないし、ロシアの元宇宙飛行士が衛星では使われていないとも述べており、否定されている。

 ヨーロッパのデータではルーマニアでの検出値が高めで、ロシア由来ではないのではないか、とも意見も出ているが、情報統制がロシアほどきつくないはずのEU圏内からそういう情報は出てきていない模様。

 9月末にロシア・サラトフのバラコヴォ原発から放射性廃棄物がマヤークに搬入されているようで、何か新しい機器のテスト中に起きたのでは、という推測を述べているブロガーがいたが、これも憶測の域を出ない。

 ルテニウム106の半減期は374日とやや長めではあるので、大気中に飛散してしまったとはいえ、土壌等への沈着も当然あるだろうから、今後の調査で何かわかることがあるはず。

 ルテニウムの由来はルーシ(Ruthenia)でルーシの後継を自ら誇るロシアでこうした事象が発生した、というのはちょっと皮肉なことで。

 こちらのロシア語記事はなかなか読み応えがあり、半減期39日で収率が3%とルテニウム106よりも多く生成されているはずのルテニウム103の検出がないということで、核分裂からやや時間が経過した放射性廃棄物由来であることが示唆される、とか、ルテニウムの化学的性質上、容易に揮発するため、一定の温度でルテニウムだけが飛ぶ(ヨウ素131も飛ぶが半減期が短いので見えなくなっている)ことから、ガラス固化など何らかの加熱工程で放出された可能性が考えられる、また、ルテニウム106自体はβ線のみ放出するが、その短寿命崩壊生成物のロジウム106がガンマ線を出すので容易に検出できる、などなど、興味深い意見や事実がいろいろと述べられている。下の方に参照リンクもあるので、ロシア語サイトが多いですが、興味のある方はどうぞ。

「チェルノブイリ周辺で火災 放射線レベル上昇」と報じられた記事の検証

 ネットニュースを見てたら、たまたま「チェルノブイリ:森林火災で放射線量 基準値の2.5倍に」というタイトルの毎日新聞の記事が流れてきたので、読んでみた。記事の最後に「(共同)」とあるので、元はこちらの共同通信配信の記事のようだった。以下、検証のため、全文貼り付けておきます。

 チェルノブイリ周辺で火災 放射線レベル上昇 2017/7/1 07:17
 【モスクワ共同】ロシア通信などによると、1986年に爆発事故を起こしたウクライナ北部のチェルノブイリ原発周辺で、6月30日までに森林火災が発生した。現場は放射性廃棄物などが保管されている立ち入り制限区域内で、火災の影響で大気中の放射線量が基準値の2.5倍に上昇したという。負傷者などは伝えられていない。

 火災は29日の日中に発生。一時は25ヘクタールまで広がった火災の面積は、消火活動により30日夜までに7ヘクタールまで減少した。現場では鉄道敷設のための森林伐採が行われており、木材などに引火したのが原因とみられる。

 最初はふーん、また森林火災が起きたのか、というので、そのまま流そうと思ったが、「基準値の2.5倍に上昇」という表現に違和感を覚え、念のため、ウクライナのサイトを調べてみることにした。こういう場合、ある地点で火災前はAという線量率だったが、火災後にBという線量率に上昇した、といった表現になるはずだが、比較元が「基準値」というのはちょっとおかしいのではないかと。

 Yandex.uaでニュース検索して、いくつかのニュースサイトを見てみると、森林火災自体は起きているものの、空間線量には変化なし、という記述が出ている記事がいくつか見つかった。ただ、その中に2.5倍に上昇という記事があるのが確認できた。そして、それらはこちらのモスクワ24というTVチャンネルをニュースソースとしていた(Flash必要なので私は見てないけど)。

 では、この2.5倍というのがどこから出てきたかと言えば、大元はこちらのウクライナ政府サイトの6/29の21時の報告内の以下の記述だと思う。ウクライナ語なので、正確に理解できてないかもだが、概ね「6/29の19時時点の火災現場での大気中セシウム137濃度は0.025bq/m3で、これは基準値0.01bq/m3の2.5倍である」というようなことが書かれている。しかし、この記述の前で、「火災現場近辺の放射線測定地点3箇所での線量に変化はない」という主旨の記述がある。

 つまり、確かに大気中セシウム137濃度は基準値の2.5倍ではあったが、「上昇した」かどうかは不明であり、空間線量率に変化がないと言っているので、「基準値の2.5倍に上昇」という記述は誤解を招く表現であると言わざるをえない。しかし、この「2.5倍」をうまく利用して、ウクライナ政府が森林火災で放射能を撒き散らし、コントロールが出来ていないという印象を与えるためであろうか、「基準値の2.5倍に上昇」という言葉でロシアの一部メディアが報じ、その情報がこうして日本でも拡散された。(共同通信配信の記事として、毎日・日経・東京新聞ほか地方紙の多くでも報道されたようだ。)

 英語圏のニュースサイトも見てみたが、森林火災の事実を伝えたサイトはいくつもあったものの、空間線量が上昇したかのような印象を与えるような記事はロシアのサイトの英語記事以外には見つけられなかった。空間線量に触れている記事自体は少なかったが、例えば、Radiation level in Chernobyl zone “normal” despite forest fireという中国・新華社通信の英語記事は線量は通常レベルであると伝えている。

 ちなみに、日本の基準値を調べてみたが、濃度限度としての基準値が出てきて、それはセシウム137で30Bq/m3となっているようだ。ただ、今回のウクライナの「基準値」は濃度限度ではなく、労働衛生基準値のようなので、比較対象にはならない。また、先日の浪江の山林火災でエアサンプラーによるダスト測定結果ではセシウム137で0.025Bq/m3という値が出たことがあった。奇しくも今回の値と同じ値であるが、これは雨天時のもので、概ね0.001Bq/m3前後の値で推移している。詳細は浪江町井出地区の林野火災現場周辺の放射線モニタリングの結果参照。

 まとめると、今回のロシアメディアの元記事がどのような意図を持って書かれたのか不明であるが、ウクライナ政府発表を曲解して記述されているようにも思え、私にはやはりフェイクニュースであるように思える。ただ、どうやらこのロシアメディア発のニュースを報じたのは共同通信のみのようであり(時事通信はそもそも森林火災の記事を伝えていない模様)、「基準値の2.5倍に上昇」と報じたのはうかつだったのではないか。上昇という場合、上昇前の値が書かれていないのであれば、このように報じるべきではなかったと思う。また、記事が出た7/1のタイミングではすでに「ウクライナ・プラウダ」などがこちらの記事などで指摘しており、もう少し裏を取る慎重さがあってもよかったのではないかとも思った。

チェルノブイリの日に実施された日本関連の現地イベント3(チェルノブイリ博物館で起き上がり小法師展)

 最後に福島とチェルノブイリ博物館関連の記事でキエフで起き上がり小法師の展覧会が開かれるという記事が出ていた。

 チェルノブイリ博物館では以前、私も関わった福島展が実施されていたが、今も一部展示が残っているようで、ウクライナにおける日本年にちなみ、福島とウクライナの連帯の意味も含め、企画されたとのこと。

 記事には「フランスで活動する高田賢三の発案で震災復興を祈願し、日本や諸外国のアーティストが会津の起き上がり小法師起き上がりにデザインを施し、フランスなどヨーロッパ各国で展覧会を実施した」とある。

 オキアガリコボシ・プロジェクトのFacebookページもあり、動画や写真を見ることができる。

 ちなみに、起き上がり小法師はロシア語でなんていうのか、と思ったら、そのまま「Окиагари кобоши」となってた。ただ、記事のタイトルには「неваляшка」という単語が割り当てられていて、googleでневаляшкаを画像検索すると、赤ちゃんをあやすため用の人形が出てきたのだった。

 英語だと、「roly-poly toy, round-bottomed doll, tilting doll, tumbler, wobbly man」とかいろんな言い方があるらしいが、Wikipediaを見ると、こちらも英語ではOkiagari-koboshiとしかいいようがないようだった。

チェルノブイリの日に実施された日本関連の現地イベント2(ウクライナにおける日本年で桜を2500本植樹)

 次はウクライナの私もよく通っていたジトーミル州の記事で、ジトーミル中心部に日本の桜が植樹されましたという記事。

 2017年は日本とウクライナが外交関係を持って25周年に当たり「ウクライナにおける日本年」として、20都市に2500本の桜を植樹する計画があるとのこと。詳細は桜2500本キャンペーンを参照。

 また、日本はジトーミルに専門的な医療機器の支援を継続しますという記事も同様にジトーミル関連の記事で、チェルノブイリ救援・中部を通して、特にチェルノブイリ事故で最も被害の大きかったナロジチ地区に数百万ドルの支援をしてきたことが述べられている。

 ナロジチ地区には震災後は一度も行っていないが、その後、どうなっているのか、ちょっと気にはなっているのだが、なかなか……。

チェルノブイリの日に実施された日本関連の現地イベント1(ひろしま・祈りの石)

 ニュースチェックしてたら、いくつか日本関連のイベントが報道されていたので、ご紹介しておきます。

 まずはベラルーシのニュースサイトのミンスク諸民族友好公園でチェルノブイリの犠牲者の碑と広島平和の石に献花という記事。

 4月26日、ミンスクのこの公園に事故処理作業者など2000人以上が集まり、犠牲者を追悼したとのことで、その中にはウクライナ、ロシア、日本の大使館関係者も来ていたとのこと。ベラルーシはロシアとの関係がウクライナほどにはこじれていないので、ここではロシアとウクライナの関係者が同じイベントに参加することが可能なのだろう。

 こちらの記事によると、この広島平和の石は2007年10月19日にこの公園に置かれたもので、広島から運ばれたものとのこと。この石自体は原爆投下時に路面電車の敷石として使われていたもので、いわば「被爆石」といってよいものであり、観音像が刻まれていて、すでに100カ国以上に送られており、さらに石の放射線が健康に影響がないレベルであることを示す証明書も添えられているとのこと。

 この石について、ググるとひろしま・祈りの石の会というNGOのページが見つかった。以下にその「設立の主旨と目的」を引用しておきます。

広島電鉄の敷石を払い下げてもらい、その200個あまりに平和を祈る「観音像」とFROM HIROSHIMAという文字を掘り込む手作業を行った市民は、この石を世界共通の「平和希求のシンボル/メッセージ」として世界の国々に受け取って頂けないか、と考えました。この思いが1991年の「ひろしま・祈りの石の会」の設立につながりました。ひろしま・祈りの石 (Stone for Peace) を持つことにより、それぞれの国で平和の尊さを再考してほしい、世界に平和の輪が広がってほしい、という強い思いは多くの人々の賛同を得ています。1991年にペルー大統領に最初に石を贈呈して以来、贈呈国は100カ国を超えました。今後も世界の平和に向けて祈りの石を通じたメッセージを発信し続けます。