チェルノブイリ森林火災の現場ともなった放射性廃棄物保管場もあるブリャコフカ村

 そろそろ「別居中」の嫁さんと子供が帰ってくるので、部屋を掃除・整理してたら、今回のチェルノブイリ森林火災が起きた時に探してて見つけられなかったウクライナで発行されたチェルノブイリ汚染地図が出てきた。マップ自体はネットでも見られるものだが、本棚に縦置きはもちろん横置きしようとしてもはみ出すほど大きい(ページ数はそんなにない)ので、本棚の中でなく、外側に立てかけるように置いてたが、その上に板がかぶさり見えない状態になっていたのだった。

 ということで、改めて地図を眺めてて気づいたのは、今回、火事に見舞われた村のうち、Рудня-Ильинецкая, Глинка, Лубянкаは原発から南西に20km以上離れた位置にあるが、Буряковкаだけは上記3村とはやや離れた、原発から西の方角に12,3km辺りに位置する村であるということで、さらに、うかつにも今気づいたのだが、この村は放射性廃棄物の埋設処分場がある村だった。日本語で「ブリャコフカ」でググったら、2012年の自分のツイートが3つ目に出てた。(ウクライナ語では「ブリャキウカ」)

 あと、衆議院チェルノブイリ原子力発電所事故等調査議員団報告書の中にも「放射性廃棄物保管場「ブリャコフカ」及び予定地「ヴェクトル」視察 という題名の視察報告PDFがあるので、関心ある方はどうぞ。6ページほどの分量です。

 この報告書によると、この処分場では深さ12mで穴を掘って廃棄物を埋めていて、さらに77の井戸を掘って、地下水を監視中だが、今までに漏れが見つかったことはないとのこと。

 今回の森林火災の時の記事を読んでると火災が廃棄物埋設場に近づいていることへの懸念が示されていて、埋設場ってあんなとこにあったんだったかなぁ、と思ってたのだが、あれはこのブリャコフカ村を指していたというわけだった。あと、コムソモールスカヤ・プラウダの記事の地図の説明で出ていた「プリピャチから7km」というのは、この村のことを指していたのだろう。

 グーグルマップだとだいたいこの辺りかと。確かに集落跡が見える。原発までの距離を測ると12.14kmと出たので、ここなんだと思う。ちなみに原発からРудня-Ильинецкаяまでは23.5kmほどだった。

 今回の森林火災の現場は比較的ゾーン内でも汚染度の低いところだったが、このブリャコフカはチェルノブイリ原発からほぼ真西に当たる。汚染地図を見ると分かるが、原発から真西に伸びる濃い線があり、ホットスポット(というかライン)になっている。つまり、ブリャコフカは汚染度が低いとはいえない場所で、さらにいうと、プルトニウム・アメリシウム241などのα線核種のホットスポットでもある場所で、手元の地図で目見当で見ると、それぞれ1000Bq/m2程度の汚染度の場所のようだ。ちなみに2011年時点のセシウム137だと40ci/km2(1480kBq/m2)以上はある。

 ということで、火事があったとすると、そうした核種やストロンチウムの再拡散もいくらかあったのではないかと思うのだが。

石川迪夫著『考証 福島原子力事故 炉心溶融・水素爆発はどう起こったか』を読んでの感想

 一昨日は頭痛で悩まされながら、しかし、そんなにひどいのではなかったので、前から通読したいと思っていた石川迪夫氏の著作『考証 福島原子力事故 炉心溶融・水素爆発はどう起こったか』を読んでみた。まだ新鮮なうちに、備忘録代わりに感想を書いておきます。

 読後感としては、福島第一原発の1号機から4号機の原子炉建屋での事象に対し、1人の人物がそれなりに矛盾なく考えたストーリーを提示した、という点で意味があるのではないか。事故調などの報告はそれぞれに意味はあるとは思うが、様々な人が関わっており、不確定な部分については、断定的に書くわけにはいかないので、どうしても謎のまま、読み手側は放り出されてしまう面があるし、東電の報告などを読もうにも専門用語が多用され、煙にまかれて、なんかようわからん、ということになりがちだ。この本では、その辺り、わからないところも「かもしれません」と但し書きをつけながら憶測を交えて書いている部分が多々有り、そこがむしろ一般読者にとっては、専門家でもわからない部分もそれなりに理解しながら、読み進められるようになっている。

 個人名の著書だが、著者は原子力村の重鎮で、その人脈を活かし、様々なエキスパートのチェックを経ているようで、正式には表に出ていないが、「耳にした」という表現での記述もちらほらとあり、まだ先のある技術者だと書きにくいことも書いていて、文系人間にとってなるほどそういうことだったかと思わせる部分が多々あった。

 ただし、「原発継続ありき」の前提で話が進むので、読むに耐えない記述があちこちにあり、そういう部分を我慢しながら読む必要があるのが面倒なところで、原発反対の立場の人が読むと「何をゆうとるんやー」と怒りたくなる記述が随所にある。

 著者はチェルノブイリ原発についても聞き取りをしており、「関係者の見聞記録や発言があって大いに役立ちました」としつつ、今回は「チェルノブイリ事故の時のような、傍証として使える具体的事実がほとんどないこと」から「情報統制が度を越すと原子力安全の改善の機会を失わせます」などとして、「東電に苦言を呈す」体に一応なってはいる。

 私は事故後しばらくは張り付いていて、原発情報を追いかけられていたが、途中でついていけなくなったので、今や自明であるようなこともわかっていないことがあるのだが、この本の中の技術的な記述で私が一番印象に残った点は、2号機ベント失敗の部分。飯舘村などへのセシウム汚染は2号機からの大量放出の寄与が大きいことは報道されていて(3号機分も相当寄与してるらしいが)、格納容器圧力が大気圧と同じになっていることから、どこかが破損し、3号機の爆発で偶然開いたブローアウトパネルから水素共々非常に濃い放射性プルームが漏れでて、そのおかげで水素爆発は免れたものの、放射性物質を大量にまき散らし、深刻な汚染の一番の源となった、というところまでは押さえていたつもりだが、p229-230の以下のような記述はちゃんと理解してなかったように思う。

 ベントが開かなかった理由は、ベント管内に挟まれていた破裂板(ラプチャーディスク)が破れなかったためといわれていますが、多少異論があるとも聞いています。(中略) 非常時にしか使用しないベントには、2重の隔離弁だけではなく、破裂板を置いて、管路からの漏洩対策に万全を期したものと推察されます。

 破裂板は、一定の圧力がかかれば破れるよう設計されていて、1、3号機では設計通り破れました。ところが残念なことに、2号機では破れなかったのです。破裂板の破裂失敗例には、取り付けの失敗が多いといわれています。

 後悔先立たずですが、いやしくもベントは安全装置ですから、破裂を置くならば万一の失敗を考えて、外力で破れる工夫を凝らしておくべきでした。この注意が不足していました。これは設計ミスです。

 この記述を読んだ時、責任者出てこい!と思わず唸ってしまった。もし存命中であれば、自分でもよくわかっていると思うので、名乗り出てきてほしいぐらいだが、もし、このベントが成功していたら、この本の中で繰り返し述べられている「750もの除染係数を持つSCベント(注:水にくぐらせ放射性物質を減少させてから大気中に放出するベントの方法)は十分役に立っていた」という記述を仮に信じると今の帰還困難区域の汚染は相当に減っていた可能性がある、ということになる。

 破裂板が破裂しなかった ―― 肝心なときにエアバッグが作動しないようなもので、いろいろと致命的なことが起きていた中で、ここはなんとかなった部分ではないかと思ってしまうところだ。ほんま、どこの誰が取り付けたのか、知りたい。

 ただし、SCベントに成功したとされる3号機についても、この本の出版後に遠隔カメラを使った調査で格納容器が破損していたことが確認されたとの報道がなされており、それを踏まえた改訂版、あるいは、この本を批判的に検証しつつ、別のストーリーを提示するような本の出版があるとよいと思った。しかし、結局、3号機でベントに成功しても、格納容器は破損したわけで、2号機でベントに成功していたとしても、汚染が相当減少したわけではない可能性も大いにあるだろう。

 1号機に関しては、データがこんなにも少なかったことを改めて知った。「とにかく、言い尽くせないいろいろな事柄が、この時間、修羅場である原子炉圧力容器の内部で、時間をかけながら進行していたと思えます」との記述にあるように多くの記述が憶測で書かれている。著者は5階爆発説を唱えているが、4階爆発説の可能性が高い、という話が出ており、1号機はまだまだ未解明部分が多いように感じる。

 4号機については、3号機からの水素逆流ということになっていて、着火源は熱膨張したダクトの折れ曲がり部分とのことだが、2号機、3号機のような傍証となるデータが少ない分、なんともいえんなあ、という印象。

 この本の筋立てとして、検証が進んだスリーマイル島原発事故での炉心溶融を元に論証しており、この筋立ては素人にはとてもわかりやすい。2号機・3号機については、概ねこの本の筋立てに近いことが起こったのだろうなぁ、という印象を持った。

 ただ、とにかく当時の民主党政権が大嫌いらしく、いちいちちくちくとうざいなぁ、と呆れながら読むことになるので疲れるが、私のような文系でもなんとかついていける書物ではあり、一読して損はない本だと思います。

 あと、もう一つ気になった点を書いておくと、『”福島原発”ある技術者の証言』という本で、「1990年の少し前から、私の見る限り、原発の現場力は明らかに低下していった」との記述があるのだが、石川氏も原発導入時からの第一世代であり、「(事故について)明快な説明ができない理由は、事故現象についての物理化学的な現象解明をしないまま、コンピュータの計算に頼るひ弱い解明方法にあります。これは日米共に同じと感じました。」としているように、今の現行世代の「包括的な」技術力に問題があることを伺わせている。つまり、技術の継承が出来ていない、ということになる。今回の福島第一原発事故では、かろうじて、第一世代が存命中だったことで助かった部分があるのではないか。そうした面を考えると、今後、再び事故が起きた時に、今以上の対応は出来ない可能性が高いように思う。原発は技術力の結晶かもしれないが、全体を把握できている人はこの世にいない、という話もあり、今だと各分野に通じたその道の専門家はたくさんいても、全体を俯瞰しながら事故対応できる人材はもういないのではないか。原発のような安全が極めて重要な施設でそんな危なっかしい話はないだろう。そういう意味でもやはり原発はなくしていく方向に進むべきと考える次第である。

 その他、この本で興味深い点を書き留めておこうと思ったが、また今度ということで。

ウクライナの生活の知恵「どのようにして放射能から身を守るか」

 先ほどの記事「チェルノブイリ森林火災の原因(続き)」の続きです。

 先ほどの記事の中で「どのようにして放射能から身を守るか」という記述があったので、訳しておきます。何かの折りに役立つかもしれません。役立つような事態にならないことを祈るばかりですが。


  • 外出するときは手持ちの服の中で最も色の薄い服を着てください。そして、帰宅時にはそれをすぐに洗います。帽子をかぶるとなおよいです。
  • 一日に数回、床を水拭きしてください。掃除機は使わない方がいいです。出来るだけ窓を開けないようにし、エアコンも使わないようにしてください。
  • 水を多めに飲んでください。食事中、赤ワインを飲むのもよいでしょう。赤ワインは放射能から人体の細胞を守る効果があります。
  • キノコ、キャベツ、魚、豚肉、人参、ビーツなど、放射能を多く蓄積する傾向のある食物は食べないようにしてください。
  • 放射能防護という観点から目・喉の洗浄を一日に二度行うとさらによいです。目を潤す目薬を差し、薄めた食塩水かソーダ水でうがいをするとよいでしょう。

 もしかしたら、放射能リテラシーの高い方からすると、根拠の薄いように感じられる記述があるかもしれませんが、当地での経験知ではないかと私は思っています。福島事故直後、味噌がいい、という話に対し、横槍を入れる人もいたようですが、味噌を一日に多食することは常識的に考えてありえないわけで、味噌を毎日食べても有害なわけはなく、原爆の被爆者の経験知から来ているものであって、むやみやたらと科学の名で断罪するのでなく、そうした知恵を尊重する態度があってしかるべきではないかと愚考する次第であります。

チェルノブイリ森林火災の原因(続き)

 今朝、「チェルノブイリ森林火災についての識者コメント」という記事で、火元について、タバコのポイ捨てか何か不明だが、何らかの火の不始末が原因ではないか、と書いたが、やはり放火ではないか、という記事も出ていたので、紹介しておく。

 こちらの記事によると、人為的な放火である根拠として、川の両側で火元が見つかったことを挙げている。確かに両側でたまたま不始末が重なった、というのは、考えにくいかもしれない。

 同じ記事で、春になると無許可でチェルノブイリの立入禁止区域内に侵入してくる「ストーカー」が増え、犯人がそうしたストーカーの中にいる可能性も指摘されている。ここでいう「ストーカー」とは、つきまとい行為をする人、という意味ではなく、タルコフスキー映画の「ストーカー」と同じ「道先案内人」のこと。ウクライナ発のゲーム『S.T.A.L.K.E.R. SHADOW OF CHERNOBYL』の影響で若い人の間にチェルノブイリ詣でをする人が増えた。

 あと、もう一つ書いておくと、キエフ市内にもチェルノブイリの森林火災の煙が到達し、臭いを感じた、とする記事も出ていたが、同じ記事内の記述によると、それはチェルノブイリのではなく、ドニエプル川左岸の野焼きが発生源とのことで、当日の風向きからもありえないので、おかしいなと思っていたが、これで謎が解けた。

 同記事内で、「どのようにして放射能から身を守るか」という記述があったので、ついでに次のエントリーで訳しておきます。

チェルノブイリ森林火災についての識者コメント

 2015年4月26日発生したと思われる今回のチェルノブイリ森林火災は5/1発表の当局コメントによると、まだくすぶっている箇所はあるものの、概ね鎮火したと見てよさそうです。

 こちらにウクライナなどの各界の識者のコメントが出ていたので紹介しておきます。私のロシア語力で理解した範囲のざっくりした大意だけとなりますが、ご容赦ください。


●ユーリ・バンダジェフスキー氏
分析センター「エコロジーと健康」所長

事故の祈念の日の翌日に起きたことは嫌な気分にさせる。ゾーンは我々には大変危険な場所で有刺鉄線で囲う必要がある。子供に危険な物を触らせないように、危険な場所に踏み入れさせるべきでない。観光も企業活動もダメ。ゾーン内の木材を商業目的で伐採し、ヨーロッパ地域などに販売するようなことは許されない。チェルノブイリ原発周辺の森の木には放射性セシウム以外にも大変危険なストロンチウムやアメリシウムなどの重元素が含まれる。ゾーン内で活動はしてはならない。

●セルゲイ・パラシン氏
元チェルノブイリ原発総責任者、現国家安全保障防衛評議会副議長

周辺に住む人々に影響するようなことは何も起こらなかったし、危険はなかった。放射能大量放出もなかった。チェルノブイリ原発までの距離も十分遠く、脅威はなかった。放射性廃棄物埋葬地に到達していたとしても地上の層で閉じ込められているので、放射能の増加はわずかだったであろう。

●トビアス・ミュンヒマイアー氏
グリーンピース・核エネルギー専門家

ウクライナの他の原発同様、チェルノブイリ原発もテロに対し脆弱。ただし、狙うとしたら、チェルノブイリではなく、稼働中の原発であろう。ゾーン内の火事はよくあることであり、もし害をもたらそうとするなら、他の方法を取るだろうから、テロではないだろう。かなりの量の放射性物質を含んだ煙がベラルーシ方面に向かったため、ベラルーシ南部ではその影響に注意を払う必要がある。

●アントン・ゲラシチェンコ氏
党派「人民戦線」議員

チェルノブイリゾーンの境界線は100キロ以上に亘り、人々をゾーン内に入れないようにするのは困難。雨が長期間降っていない時期の火は特に注意すべき。森林火災を防止するために観光を禁止することはできない。観光客に注意喚起すべき。春の森は火がつきやすい。タバコのポイ捨てで容易に火がつく。よって、何かの目的で放火したとの陰謀論はまったくありえない。概して、これだけの面積での森林火災だと目撃者がない場合、犯人特定は困難。

●ボレイコ氏
生態学者

4月26日のチェルノブイリの日には多くの訪問客がいた。焚火、タバコのポイ捨て、エンジンの点火などで火が移ったと考えるのが自然。今回の火事はテロではなく、不注意であると確信。テロの場合、例えば、キエフ上流のダム湖を攻撃するだろう。キエフ半分は水に浸かる。
一貫性のない政策のせいで、大統領が変わると、研究予算が削減される。ゾーン内で研究に従事していた生物学者は途中で研究を終了した。今あるのは、外国の学者との研究ぐらいだが、彼らは常時いるわけではない。ゾーン内に保護区を作る計画があり、環境省は予算を取ったが、作られていない。どこに行ったのか。汚職、詐欺、金儲け主義の企業ばかり。

●ニコライ・マロムシュ氏
ウクライナ対外情報機関長官(2005-2010年)

国を不安定化する目的で、チェルノブイリや他の原発はテロの対象となりえるが、ロシア・ベラルーシ・ヨーロッパなどにも波及してしまう。今回のは、政府機構の未熟、状況をコントロールできない無能さを示すために意図的に放火したのではないか。


 以上、全文訳は大変なので、抜粋としました。総合すると、今回の森林火災は意図的な放火ではなく、不注意な訪問者による火事の可能性が高い、ということかと。

 この件で、日本の帰還困難区域などでの山火事対策がどこまで出来ているのかが気になった。ググると今年2015年3月28日に浪江町の高線量地区として知られる赤宇木地区で火事があったようで、こちらで現地の映像を見ることが出来る。

 山火事は再拡散につながるので、発生させないことが第一とはいえ、どうしても発生するものはしてしまうので、可能な限り、消防の皆さんの被曝を軽減できるような対策を予め準備しておき、延焼範囲を小さくするために、早期に消火出来る体制を築いておくことが必要なのかな、と。(いや、もうやっておられるとは思うが。。。)